斬首が公衆の面前で行なわれていた時代には、
新渡戸稲造「武士道」
幼い少年たちはその恐ろしい光景を見に行かされた。
またあるいは暗闇の中を一人でそこへ行き、
その証拠にさらし首に自分のしるしをつけてくるように命じられた。
悪いものがあるからこそ良いものを知る
武士の家では「肝を練る」ために、こういったことをやらせることがあったようです。
【勇】を重んじる武士にとって、臆病風に吹かれるなどもってのほか!という部分もあったとは思いますが、命のやり取りをする戦場では、縮み上がってしまった方が逆に危険だという部分が、親としては大きかったのではないでしょうか。
他にも、食べ物を与えられなかったり、寒い中、外にさらされたりする…というようなことも、忍耐を鍛えるための効果的な方法と考えられていました。
今ならば確実に事件ですが、過酷な戦場にわが子を送り出す親として、それなりの愛情をもってなされていたことなのだと思います。
いつ死んでもおかしくない時代というよりも、むしろ死ぬことを前提に生きていた時代の教えだったのでしょう。
今はとにかくリスクは避けて通る時代になりました。
子供がケガをするといけないので、こういう場所は、物は、ないほうがいい…
こういう番組は、映画は、漫画は、ゲームは、子供に有害だから公開しないでほしい…
そもそも存在していなければリスクが及ぶことはない…という考え方は確かにリスクヘッジとしては合理的ですが、人生の経験を合理で図っていいものでしょうか…
人生には、痛い、苦しい思いをして、初めて分かる事がたくさんあります。
テレビや映画などを通じてこそ、日常では伝えられないことを親が伝えることができるチャンスがあります。
「良いもの」を「良いもの」とだけ教えるのではなく、「悪いもの」を「悪いもの」として教えていかないと、結局「良いものの良さ」も分からないでしょう。
子供のうちは、まだ親が守ってあげることができますが、大人になってからはいつも一緒に見てあげることもできなくなります。
本当の意味でリスクを回避するためには、リスクが何なのかをまず知らなければなりません。
そうやって、何が良いもので何が悪いものなのかを、自分で判断できるようになるのでしょう。
大切なことは、今の現状をどうにかしてくれ!と誰かに頼むことよりも、今の現状の中でもしっかり立っていられるように育てていくことではないでしょうか。